AIへの投資は本当に報われているのか——経済学者が「ゼロ」と断言
「AIを使えば業績が上がる」という空気は、いまやビジネスの世界に広く漂っています。しかし先日、米国の大手投資・金融調査機関アポロのチーフエコノミストが、TechCrunchの取材に対してこう述べました。「テック企業以外の一般企業にとって、AIが財務的なリターンをもたらしているエビデンスはない」と。
これは「AIは役に立たない」という話ではありません。「AIに巨額を投じているにもかかわらず、財務諸表に表れるような利益を得ている企業は、テック業界の外ではほとんど存在しない」という、より踏み込んだ指摘です。
中小企業の経営者として、このニュースをどう受け取るべきでしょうか。ここでは、この発言の背景にある構造と、日本の中小企業にとっての現実的な意味を一緒に考えてみます。
なぜ「財務的なリターンはゼロ」と言えるのか
AIへの投資は急増しているが、成果は偏っている
アポロの経済学者の指摘の核心は、「投資と成果の非対称性」にあります。AIへの企業投資は世界規模で急拡大しており、クラウドサービスの利用料、AIツールのライセンス費用、社内への導入コストなどが積み上がっています。それに対して、売上や利益といった財務指標に表れる成果は、テック企業や一部の大企業に集中しており、それ以外の多くの企業には届いていない——というのが、この発言の主旨と読めます。
なぜ成果が出にくいのか
情報源の発言から直接読み取れる原因の説明は限られていますが、この現象には構造的な背景があると考えられます。
ひとつは、「使っているけれど測れていない」問題です。AIが業務を効率化しても、それが売上増や明確なコスト削減として経理数字に表れるまでには時間がかかります。「なんとなく便利になった」という感覚にとどまっているケースは、大企業でも中小企業でも多いのではないでしょうか。
もうひとつは、「導入したが使いこなせていない」問題です。AIツールを契約しても、実際に日常業務に根付かせるには、使い方の設計と習慣化が必要です。試したまま放置されているツールが増えるだけでは、コストが乗るだけで効果はゼロに近くなります。
そして、「そもそも大きなコストをかけて導入している」問題もあります。特に大企業では、AIプロジェクト自体が大きな予算を消費します。それに見合う財務的リターンを出すのは、そもそも難しいのです。
中小企業にとって、これは何を意味するか
「テック企業以外はリターンゼロ」は、中小企業にとって悲報ではない
ここで少し立ち止まって考えてほしいのですが、この指摘は「大企業が大金をかけてもリターンが出ていない」という話です。中小企業、特に愛媛・松山のような地方の中小企業が置かれている状況は、これとは少し違います。
大企業が投資するAIプロジェクトは、多くの場合、数千万〜数億円規模の導入費用、専門チームの組成、複雑なシステム連携などを伴います。財務的なリターンを出すためには、それに見合う規模の効果が必要です。
一方、中小企業がいま活用できるAIツールは、月数千円〜数万円の費用で試せるものが大半です。スタートラインが違います。少ない投資であれば、小さな効果でも十分に元が取れます。
つまり、「大企業ではリターンが出ていない」という事実は、「中小企業もAIをやめるべき」という結論には直結しません。むしろ、大企業が膨大なコストをかけて試行錯誤している間に、中小企業は低コストで実験できる立場にいる、とも言えます。
ただし「なんとなく使っている」では同じ轍を踏む
とはいえ、アポロの経済学者の指摘には、中小企業にも刺さる部分があります。それは「目的なき導入はリターンを生まない」という点です。
「他の会社も使っているから」「話題だから」という理由でツールを契約し、具体的な業務への組み込み方を設計しないまま使い続けると、コストだけが増えて成果は曖昧なまま、という状況になります。これは規模の大小に関係なく起きうることです。
では、中小企業はどう動くべきか——具体的な場面で考える
「何に使うか」を先に決める
リターンを出している企業とそうでない企業の違いのひとつは、「課題から始めているか、ツールから始めているか」だと考えられます。
経理の仕訳チェックに時間がかかっている、問い合わせへの返信が毎回ゼロから書いていて非効率だ、新しいスタッフへの業務説明をそのつど口頭でしている——こうした「具体的に困っていること」を起点にすると、AIの使いどころが見えてきます。
逆に「AI、何かに使えないかな」という探し方では、なかなか成果につながりません。
「小さく試して、測る」を繰り返す
財務的なリターンをきちんと把握するには、「この作業にかかっていた時間が、AIを使ったことでどのくらい減ったか」を数えることが必要です。感覚ではなく、実際に記録します。
例えば、毎月2時間かかっていた報告書の下書き作業が、AIを使うことで30分になったとします。担当者の時給換算でどのくらい浮いたか。それが月々のツール費用を上回っているか。こうした小さな計算の積み重ねが、「使う・使わない・変える」の判断を根拠のあるものにします。
愛媛・松山のような地方の中小企業では、本社・部門が分かれた大企業と違い、経営者自身が現場の業務を把握しやすい環境にあります。この「現場との距離の近さ」は、AI活用の試行錯誤を素早く回せる強みです。
Webや問い合わせ対応への活用は特に相性がよい
私たちCirasが日々の支援の中で感じるのは、Webサイトのコンテンツ作成や、問い合わせへの初動対応は、小規模な組織でもAIの恩恵を受けやすい領域だということです。
例えば、よくある問い合わせへの返信文の下書きをAIに作らせる。サービスページや採用ページの原稿のたたき台を作る。更新が止まっていたブログ記事のネタ出しや構成案を出してもらう。こうした用途は、専門的なシステム開発も大規模な投資も必要なく、今すぐ試せます。
特にAEO(AI検索最適化)という観点でいうと、ChatGPTやPerplexityなどのAI検索エンジンに自社の情報が引用されるには、「明確な問いに対して明確に答える構造」が必要です。AIを使って定期的にコンテンツを更新し続けること自体が、将来の集客につながる可能性があります。これは財務的なリターンとして数字に表れにくいかもしれませんが、積み上がる資産です。
「ブーム」と「現実」の間で、自社なりの基準を持つ
「みんなやっている」も「やっても意味がない」も、鵜呑みにしない
アポロの経済学者の指摘は、AIを取り巻く「過剰な期待」に対するひとつの冷静な声として受け取ることができます。「AIを入れれば自動的に業績が上がる」という根拠のない楽観は、確かに危険です。
一方で、「財務的なリターンがゼロなら使う必要はない」という極端な結論も、現実に合っていません。リターンの測り方、比較対象となる投資規模、時間軸——これらが違えば、答えは変わります。
中小企業の経営者に必要なのは、AIについての「自社なりの判断基準」を持つことです。何のために、どのくらいのコストで、どんな業務に使うか。それが月々の費用に見合っているかを定期的に確認する。これだけで、「とりあえず導入して成果ゼロ」という状況は相当避けられます。
「使いながら考える」ができる時代
かつて業務システムの導入は、大きな意思決定と長い準備期間を要しました。いまのAIツールの多くは、月単位でやめられるサブスクリプション型です。試してダメなら止める、という選択肢が最初から用意されています。
これは「失敗してもリカバリーしやすい」という意味でもあります。完璧な計画を立ててから動くよりも、小さく始めて自社に合うかを確かめながら進む方が、現実的で賢明な場合が多いと思います。
まとめ:「ゼロ」という指摘が教えてくれること
「テック以外の企業にはAIの財務的リターンがない」というアポロの経済学者の発言は、AI投資に対する重要な問いかけです。ただし、これは「中小企業もAIを使うな」という話ではありません。
大企業が大規模な投資に対してリターンを出せていない背景には、「目的の曖昧さ」「測定の難しさ」「コストの重さ」があると考えられます。中小企業は、低コストで小さく試せる立場にいます。ただしそれは、「目的を明確にして使う」「効果を測る習慣を持つ」という条件とセットです。
AIをめぐる情報は、楽観的なものも悲観的なものも、これからも次々と出てきます。そのたびに右往左往せず、「自社ではどうか」を自分の頭で考える姿勢が、結局は一番の武器になると思います。
気になるAI活用の相談があれば、Cirasでは随時お問い合わせをお受けしています。大げさな導入でなくても、「まずここから試してみよう」という入口を一緒に探すことができます。