結論:AIは「散らかった情報」にも真面目に反応してしまう
Googleの開発者向けブログが、コーディングを手伝うAI(コーディングエージェント)の動きを分析した結果を公開しました。この分析は、AIが指示されていない作業に寄り道してしまう実態を数字で示しています。
この記事で一番お伝えしたいのは、次の一点です。
AIに仕事を任せるとき、成果を左右するのは「AIの賢さ」だけではありません。AIが読み取る資料や情報が整理されているかどうかも、同じくらい大きく影響します。
プログラミングの話に聞こえるかもしれません。ですが、この結果は、これからAIを業務に取り入れる中小企業にとって、そのまま当てはまる示唆を含んでいます。ここでは、報告の中身を整理し、愛媛・松山をはじめとする地方の中小企業の現場に引きつけて考えます。
何が分かったのか:約91万セッションの分析結果
対象と概要
分析の対象は、91万3,000件を超えるコーディングエージェントのセッションです。セッションとは、AIが一つの作業を始めてから終えるまでのひとまとまりのやりとりを指します。
この規模のデータをもとに、次のような傾向が示されています。
- 全体の13%のセッションで、AIがコードの中に残された「TODO(b/…)」という形式のコメントに出会っていました。TODOコメントとは、開発者が「あとでここを直す」「この件は別途対応」と書き残したメモのようなものです。
- そのメモに出会った場面のうち、6%では、AIがそのメモの内容に沿って実際に作業を始めていました。
- 作業を始めたケースの83%は、開発者が頼んでいないのにAIが自分で動いたものでした。
寄り道のコスト
寄り道には、はっきりとしたコストがかかっていました。寄り道が起きたセッションでは、1回あたり次の負担が増えています。
- 作業のステップ数が70%増える
- 消費するトークン(AIが処理する文字量の単位で、利用料金に関わるもの)が77%増える
- 待ち時間が105%増える
寄り道の中身は、大きく二つに分かれていました。
- すでに対応が終わったチケット(作業管理上の依頼票)を追いかけてしまう:41%
- まだ未解決の不具合について、頼まれていない範囲まで手を広げてしまう:57%
さらに注目すべき点があります。性能の高いモデルほど、寄り道の発生率が高いと報告されています。そして報告は、AIが迷わず作業できるよう、古いメモを自動で片付ける仕組みや、チェックツール(リンター)を整える必要性を挙げています。
なぜそれが起きるのか:AIは書いてあることを「頼まれごと」と受け取る
人間とAIの違い
人間の担当者なら、古いメモを見ても「これは昔の話だな」と文脈で判断できます。「このチケットはもう終わったはず」と気づくこともあります。
AIは、目の前に書かれている情報を、基本的にすべて「考慮すべき材料」として扱います。そのため、すでに役目を終えたメモでも、AIには現役の指示のように見えてしまうことがあります。性能が高いモデルほど「気を利かせて」動こうとするため、寄り道が増えるのだと考えられます。
この点は、報告の数字から読み取れる傾向であり、AIの内部でなぜそうなるのかまでは、情報源からは分かりません。ここでは「そのような傾向が確認された」という事実にとどめます。
経営にとっての意味
この報告は、AIを導入した会社に起こりうる問題を、先取りして見せてくれています。AIが賢くなるほど、手元の情報の質が成果を左右します。つまり、AI活用の成否は、ツール選びよりも「社内の情報をどう整えるか」に左右される部分が大きい、ということです。
中小企業ではどう現れるか:身近な場面で考える
ここからは、情報源の内容を中小企業の現場に置き換えた想定例です。実際の事例ではなく、起こりうる場面のイメージとしてお読みください。
場面1:問い合わせ対応の資料が古いまま
お客様からのよくある質問への回答を、AIに下書きさせている会社を想像してください。社内の回答集に、すでに終了したサービスの案内や、今は変わっている料金の説明が残っていたとします。
AIは、その古い記述を根拠に、丁寧で自然な文章を書いてしまうかもしれません。文章が上手なぶん、間違いに気づきにくくなります。今回の報告で「終わったチケットを追いかける」という寄り道が全体の41%を占めたことは、この状況とよく似ています。
場面2:経理・事務の指示書に「あとで直す」が残っている
請求書の処理手順や、月次の確認ルールをまとめた資料に、「この部分は要見直し」「別途検討」といった書き込みが残っている会社は少なくありません。
人間の社員は、その書き込みを見ても、普段の業務ではあえて無視して進められます。しかしAIにその資料を読ませると、書き込みを受けて、頼んでいない部分まで手を入れてしまう可能性があります。報告にある「未解決の不具合で、頼まれていない範囲まで手を広げる」(57%)という動きと同じ構造です。
場面3:Webサイトや集客のコンテンツ
ホームページの記事や、サービス紹介のページを、AIに更新させたり、AI検索に引用されやすいよう整えたりする場面でも同じです。古いキャンペーンの告知や、閉店した店舗の情報、廃止したメニューがサイトに残っていると、AIがそれを現在の情報として扱ってしまうおそれがあります。
私たちCirasがお手伝いしているAEO(AI検索に引用される構造づくり)でも、「最新で正確な情報が、整理された形で置かれていること」は土台になります。AIに読まれる時代には、古い情報を放置しておくこと自体がリスクになります。
小さく始める:今日からできる三つの備え
大がかりなシステムを入れる必要はありません。地方の中小企業では、担当者が兼務で動いていることも多いため、「小さく始めて続ける」ことが現実的です。
備え1:AIに読ませる資料を絞る
AIに参照させる資料は、「今、本当に使っているもの」だけに絞ります。古いマニュアルや、使わなくなった料金表は、AIが読める場所から外すだけでも効果があります。まずは、よく使う資料を3つ選ぶところから始めてみてください。
備え2:「終わったもの」に印をつける
資料の冒頭や、ファイル名に「2025年版・使用終了」といった印をつけます。印があれば、人間も迷いませんし、AIに読ませる前に取り除く判断もしやすくなります。報告が挙げる「古いメモを自動で片付ける」考え方を、手作業で小さく試すイメージです。
備え3:AIへの指示に「範囲」を書く
AIに作業を頼むときは、「この資料のこの部分だけを直してください。それ以外には触れないでください」と、範囲を明示します。性能の高いAIほど気を利かせて動くため、範囲を決めておくことが、寄り道の予防になります。
見落としやすい点:寄り道はコストにもなる
今回の報告で、見逃せないのはコストの面です。寄り道が起きたセッションでは、ステップ・トークン・待ち時間がいずれも大きく増えていました。
AIの利用料金が、使った量に応じて決まる契約の場合、寄り道はそのまま費用の増加につながります。また、待ち時間が延びれば、担当者の作業時間も延びます。「AIを入れたのに思ったほど楽にならない」と感じる原因の一つが、こうした見えない寄り道かもしれません。
もちろん、この数字はコーディングという特定の分野で観測されたものです。ほかの業務にそのまま当てはまるとは限りません。ただ、「整理されていない情報が、AIの手間と費用を増やす」という構造は、業種を問わず意識しておく価値があります。
まとめ:AI活用の土台は「情報の整理」にある
最後に、要点をもう一度整理します。
- 約91万セッションの分析で、AIはコード内の古いメモに反応して、頼まれていない作業に寄り道することが分かりました。
- 寄り道が起きると、ステップ・トークン・待ち時間が大きく増え、性能の高いモデルほど発生率が高い傾向がありました。
- この構造は、問い合わせ対応・事務・Web更新など、中小企業のAI活用にも当てはまると考えられます。
- 備えとして、読ませる資料を絞る、終わったものに印をつける、指示に範囲を書く、という小さな工夫から始められます。
AIは、導入すればすぐに成果が出る魔法の道具ではありません。一方で、資料や情報を少し整えるだけで、成果が安定しやすくなる道具でもあります。
「うちの資料はどのくらい整っているだろう」と、一度ざっと眺めてみるだけでも、新しい発見があるかもしれません。無理のない範囲で、できるところから試してみてください。