CIRAS JOURNAL

AIのレコメンドは諸刃の剣。中小企業が学べること

AI活用執筆:杉本竜弥

ペットアプリ「Instinct」が導入した商品・旅行レコメンド機能がユーザーの反発を招いた。この事例から、AIによる提案機能を自社サービスや集客に活用する際に中小企業が押さえておくべき視点を整理します。

結論から言います:「頼んでいない提案」は信頼を損なう

AIを使ったレコメンド(おすすめ機能)は、うまく機能すれば顧客満足度を高め、売上にもつながります。しかし使い方を誤ると、それまで積み上げてきたユーザーとの信頼関係を一度に傷つけることがあります。

2026年10月1日、テクノロジーメディア「TechCrunch」が報じたのは、まさにその典型的なケースです。ペット管理アプリ「Instinct」が新機能として商品や旅行に関するレコメンドを導入したところ、一部ユーザーから強い反発が起きました。ユーザーが求めていたのはペットの健康管理であって、商品や旅行の提案ではなかった——という声が出ているのです。

この出来事は、AIを自社サービスや集客に活用しようとしている中小企業にとって、非常に示唆に富んでいます。大きな予算をかけなくても、小さな設計判断ひとつがユーザーの「なんか違う」という感覚につながる。その感覚が、解約や口コミへの悪影響を生みます。

なぜ「良かれ」と思ったレコメンドが反発を招くのか

機能とユーザーの期待のズレ

Instinctは、人が選んだ(ヒューマンキュレーションの)商品や旅行プランを提案する機能を追加しました。これ自体は、一見ユーザーにとって便利に思えるかもしれません。しかし報道によれば、ユーザーは「頼んでいない提案をされた」という感覚を持ったとされています。

「ヒューマンキュレーション」とは、AIが自動的に判断するのではなく、人間が選んで並べた情報のことです。機械的なレコメンドではないため質は高いかもしれませんが、それでも「求めていないタイミングで届く提案」はユーザーに違和感を与えます。

信頼は「一貫した体験」の積み重ね

ユーザーがあるアプリやサービスを使い続けるのは、そのサービスに対して「何のために使うか」という明確なイメージを持っているからです。その前提を崩す変化は、たとえ意図が良くても「なんか変わった」「広告みたいになってきた」という不満につながりやすい。

特に、サービスへの関与度が高いユーザーほど、この感覚は敏感です。ペットの健康に真剣に向き合っているユーザーであれば、「旅行のすすめ」が突然表示されることへの違和感は大きくなります。

中小企業にとって、これはどういう意味があるか

「おすすめ機能」は今や中小企業にも身近

数年前まで、レコメンド機能はAmazonや大手ECサイトのような大企業だけのものでした。しかし今は、SNSの自動投稿ツール、メルマガの配信タイミング最適化、ECサイトの関連商品表示、チャットボットによる案内など、中小企業でも低コストでAIを使った「おすすめ」の仕組みを取り入れられる環境があります。

愛媛・松山でも、製造業や飲食業、小売業の方々が「LINEで自動返信を入れた」「ネットショップに関連商品の表示を追加した」という取り組みを始めているのを見かけます。これはとても自然な流れです。

ただ、Instinctの事例が教えてくれるのは、「機能を追加すること」と「ユーザーに喜んでもらえること」は、必ずしも同じではないという点です。

「ユーザーが来た目的」からずれた提案はマイナスになる

例えば、あなたが工務店のWebサイトを運営していて、訪問者に「お役立ちコンテンツを読んでもらった後に、関連する施工事例を自動表示する」という仕組みを入れたとします。これは自然なつながりがあります。

一方で、同じページで「旅行保険のご案内」や「引越し業者の比較」が急に出てきたらどうでしょう。訪問者は混乱するでしょうし、「このサイト、広告だらけになってきた」という印象を持つかもしれません。

内容の質よりも先に、「なぜここでこの提案が出るのか」という文脈のつながりが、ユーザー体験を左右します。

チャットボットや自動応答でも同じことが起きる

問い合わせ対応にAIチャットボットを入れている場合も、似たリスクがあります。「営業時間を知りたい」と入力したユーザーに、「お得なキャンペーンもご覧ください!」と返ってきたら、どう感じるでしょうか。

もちろん、タイミングによっては関心を持つユーザーもいます。しかし、まず「求めた情報をちゃんと答える」という基本を押さえないまま提案を差し込むと、「この会社は売ることしか考えていない」という印象につながります。

では、どうすればよいか。3つの視点で整理する

1. 提案のタイミングと文脈を設計する

Instinctの事例が示すのは、機能そのものの問題というより、「どのタイミングで・どの文脈で出すか」の設計が不十分だった可能性があるということです。これは推測ですが、ユーザーが「ペットの記録をつけている最中」に商品提案が来れば、それは体験の邪魔になります。

自社のサービスや集客に何らかのAI的な仕組みを入れるなら、「この提案はユーザーの目的の延長にあるか」を一度立ち止まって確認することが大切です。

具体的には:

  • ユーザーが何を求めてそのページ・サービスに来たか
  • その目的を果たした後で、次に何を求めるか
  • その流れの中に、自然に置ける提案は何か

この順番で考えると、「押しつけ感のないおすすめ」に近づきます。

2. 「機能追加」はユーザーに事前に知らせる

Instinctのケースで反発が起きた背景には、「突然変わった」という驚きもあると考えられます。長く使っているユーザーほど、慣れ親しんだ体験への変更を嫌がる傾向があります。

中小企業でも、例えば「来月からLINE公式アカウントでおすすめ情報をお届けします」と事前にアナウンスするだけで、受け取り方はかなり変わります。提案そのものの内容と同じくらい、「なぜこうなったか」の説明がユーザーの納得感を左右します。

3. オプトイン(受け取るかどうかを選べる)を検討する

Instinctのケースで報じられていることの一つは、ユーザーが「求めていないのに届いた」という点です。これを防ぐシンプルな方法が、ユーザー自身に「受け取るかどうか」を選ばせる仕組みです。

「オプトイン」とは、同意した人にだけ提案や情報を届ける方式のことです。逆に、デフォルトでオンになっていて「嫌なら切る」方式は「オプトアウト」と呼ばれます。後者は多くの人に届く反面、望まない人に届いて反発を生みやすい。

大企業のシステムでなくても、メルマガの配信設定や、LINEのリッチメニューで「情報を受け取る/受け取らない」を選べるようにするなど、小さなツールで対応できることも少なくありません。

Webサイトや集客に使うAI機能でも、同じ視点が必要

AEO(AI検索対応)の観点でも「意図に沿うこと」が重要

弊社Cirasでは、AIを使った検索(Perplexity、ChatGPT検索など)に自社の情報が引用されやすい構造づくりをご支援しています。これを「AEO(Answer Engine Optimization、AI検索最適化)」と呼んでいます。

AEOの文脈でも、Instinctの事例は示唆があります。AI検索はユーザーの「意図」に最も忠実にマッチするコンテンツを優先的に引用します。検索した人が「松山市でリフォームを頼む業者を探している」なら、その意図に正直に答えているページが選ばれやすい。売り込みの色が強すぎる文章より、「求めていることにちゃんと答えている情報」の方が、AIに引用されやすいわけです。

レコメンドもAEOも、根っこにある考え方は共通しています。「相手が求めていることに誠実に向き合う」——これがAIをうまく使うための、変わらない基本だと感じます。

まとめ:AIの機能追加は「相手の文脈」から設計する

Instinctの事例は、AI機能を持つサービスが「良かれと思って追加した機能」がユーザーの反発を招いたという、2026年10月時点の現実を示しています。

中小企業の立場で言えば、AI機能を活用するかどうかより前に「誰の・どんな場面での・何を解決するための機能か」を先に考えることが重要です。機能の有無ではなく、設計の丁寧さが、ユーザーの信頼に直結します。

愛媛の現場でも、「チャットボットを入れたけど使ってもらえない」「メルマガの開封率が下がった」という話を聞くことがあります。多くの場合、機能そのものより、タイミング・文脈・ユーザーへの説明が不足していることが原因だと感じます。

AIを活用する取り組みをすでに始めている方も、これから検討している方も、「ユーザーが何を求めてそこに来たか」という問いを出発点に置くだけで、設計の質はぐっと変わります。大きな投資をしなくても、今使っているツールの設定や文章の見直しから始めてみることができます。

焦らず、少しずつ、ユーザーの感覚に寄り添いながら——それが、長く続く活用のかたちだと思います。

参照元

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